長谷川和彦 革命的映画術

企画・主催 A PEOPLE

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作家主義 ホン・サンス「カンウォンドのチカラ」「オー!スジョン」

NEWS

「長谷川和彦 革命的映画術」トークイベント開催、ゲストが決定

A PEOPLE「作家主義 作家×自己を語る 長谷川和彦」


INTRODUCTION

私たちは、まだ「映画作家 長谷川和彦」を知らない。
その凄さを。その深さを。その哀しみを。

時代に、社会に、組織に反逆し続ける男たち。
そんな若者たちの闘いを、タブー無き鮮烈なストーリーで描き出し、1970年代後半、映画界に革命を巻き起こした男、長谷川和彦。

それは日活ロマンポルノ「性盗ねずみ小僧」の脚本(1972)から始まった。
名もなき男が江戸の街をひっくり返す痛快艶笑時代劇「性盗ねずみ小僧」

警察官たちが強盗団に化けて暴走する衝撃作「濡れた荒野を走れ」(1973)

弁護士の卵ショーケンの脱力的キャラクターに孤独の影を深く刻んだ、哀しみの名作「青春の蹉跌」(1974)

アメリカンニューシネマ大正アナーキー版☓歌謡モノローグ集ともいうべき、傑作「宵待草」(1974)


(C)1979 東宝/フィルムリンク・インターナショナル   (C)1976 今村プロ/東宝

こうした脚本家としての優れた技量と才能を磨きつつ、今村昌平監督「神々の深き欲望」(1968)での助監督(超苛酷な長期沖縄ロケ!)などを経て、30歳にして1976年、「青春の殺人者」で監督デビュー。

「青春の殺人者」は実際に起きた事件をベースにした中上健次の小説「蛇淫」が原作。
22歳の青年が発作的に父親と母親を殺害し、ふたりを海に捨てる。

衝撃的なストーリーながら、映画に暗さは微塵もない。犯罪でも殺人でも悲劇でもなく、物語はその先に突き抜けたような「明快な、ある解放」にたどり着く。「音楽はビートルズにしたかった」という監督が選んだ、ゴダイゴのポップな英語曲にのせて、どこまでも彷徨していく主人公の姿が胸に迫る。

続く監督第2作は1979年「太陽を盗んだ男」。中学校の教師が原子力発電所に侵入しプルトニウムを強奪、自分のアパートで原爆を製造し、警察や政府に戦いを挑む。

皇居や国会でのゲリラ撮影、幻のローリングストーンズ公演など全長2時間27分、見どころ満載!1作目と打って変わってエンタテインメントを極めた作りだ。一方、広島で生まれ、体内被曝した監督自身の体験も色濃く投影している。

いずれもテーマは、簡単に手のでないフツーならビビッてしまうヘビーで骨太な素材だ。しかし、映画は決してテーマ、問題主義には陥らない。あくまで「見せること」に徹し、映像だから表現できることにこだわり、スタッフ・キャストらあらゆる人間を巻き込む。そこから圧倒的なグルーヴ感、飛躍感が生まれ、映画熱が全編に漲っている。

ホント1度でいい、あなたの、その目で確かめるしかない。

長谷川の「革命的映画術」とは、映画という自己との戦いの果てに、自ら答えを見出すこととも言えるかもしれない。

映画作家、反逆の映画監督、「長谷川和彦 革命的映画術」をいま!若者よ、見て盗め!超えろ!

※今回、長谷川監督が1991年に出演した「夢二」も上映決定!妻と妻の愛人を殺した殺人鬼という役どころ。凄みのある狂気な演技と強烈な存在感に注目いただきたい、「太陽の盗んだ男」の沢田研二が主演。

FILMS

(C)1976 今村プロ/東宝

青春の殺人者(1976年)

「キネマ旬報」ベスト・テンで日本映画の第1位に選出された長谷川和彦の監督デビュー作。実在の事件をもとにした中上健次の小説「蛇淫」を田村孟が脚本化し、今村昌平のプロデュースのもと、ATG映画として撮り上げられた。幼なじみの女性との仲を裂かれそうになったことを契機に両親を殺害してしまった青年の無益な逃避行が描かれる。当時の若者の虚無を描く一方、成田空港建設反対闘争を織り込むなど、往事の問題意識も随所に横溢し、見ごたえは尽きない。行き場を失った主人公を水谷豊が、無垢な幼なじみを原田美枝子がそれぞれ等身大で好演。音楽担当は当時まだ無名のゴダイゴ。ポップな英語歌曲の中に得も言われぬ映画の情感を屹立させた。

監督:長谷川和彦 原作:中上健次 脚本:田村孟
出演:水谷豊/内田良平/市原悦子/原田美枝子

1976年製作/132分/R15+
配給:ATG


(C)1979 東宝/フィルムリンク・インターナショナル

太陽を盗んだ男(1979年)

中学校の理科教師が原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、自宅で原子爆弾を完成させて警察に無理難題を押しつける。野球中継を最後までテレビ放映すること、ローリング・ストーンズを日本へ入国させること、そして5億円の要求。シリアスな政治犯とは異なり、どこか平和ボケの主人公が起こす荒唐無稽の騒動が、ついにはひとりの中年刑事との肉弾戦へと収斂していく展開が異色にして痛快。劇場公開時から年を経るごとにカルト人気を博している。ただし、その目を見張るエンターテインメント性の一方で、広島出身の長谷川和彦にとっての原爆は通説な題材であることは疑いのないところ。刑事を演じた菅原文太は日本アカデミー賞助演男優賞を獲得。

監督:長谷川和彦 原案:レナード・シュレイダー 脚本:レナード・シュレイダー/長谷川和彦
出演:菅原文太/沢田研二/池上季実子

1979年製作/147分
配給:東宝


(C)1974 東宝

青春の蹉跌(1974年/脚本)

石川達三による同名小説を長谷川和彦が脚色した青春ドラマ。野心的な司法学生が、自身が家庭教師を務める教え子とのなし崩し的な肉体関係を続ける中、裕福な伯父の娘との関係に将来の打算が働き、やがて破滅の道を進んでいく。70年代安保闘争を背景に、神代辰巳演出のもと、若者特有の衝動的な思い、消しようのない焦燥感が絶妙にあぶり出された。とりわけ、雪山のクライマックスにおける主人公=萩原健一と教え子=桃井かおりの「道行き」が秀逸。主人公がアメフトの選手という設定は、長谷川自身の学生時代を投影したもの。萩原、沢田研二らとロックバンド「PYG」で同じ釜の飯を食った井上堯之が音楽を担当。「太陽を盗んだ男」でも劇音楽を書いた。

監督:神代辰巳 原作:石川達三 脚本:長谷川和彦
出演:萩原健一/桃井かおり/檀ふみ

1974年製作/85分
配給:東宝


宵待草(1974年/脚本)

「青春の蹉跌」の成功は、監督・神代辰巳×脚本・長谷川和彦のタッグを再びかなえた。大正時代を背景に、無政府主義集団「ダムダム団」と行動を共にすることになった大学生、「ダムダム団」に誘拐された政界の大物の令嬢、「ダムダム団」の中心的メンバーの3人による出口なき逃避行を描く。奇妙な三角関係の図、満州を目指す逃避行の旅情感、そしてこれが映画音楽デビューとなった細野晴臣による陽気な響きが、通り一遍の悲劇には背を向けた独特の情緒を醸し出している。作風としては、仏ヌーヴェル・ヴァーグ、アメリカン・ニューシネマの延長にある気分が楽しめるだろう。映画の題名は、登場人物たちが口ずさむ竹久夢二作詞の同名流行歌を指す。

監督:神代辰巳 脚本:長谷川和彦
出演:高橋洋子/高岡健二/夏八木勲

1974年製作/96分
配給:日活


濡れた荒野を走れ(1973年/脚本)

表の顔は警察、裏稼業は強盗という一味のメンバーが主人公。その非道の大暴れが連続して描かれるかと思いきや、物語は主人公を現在の警察職務に導いた元公安の上司が精神病棟から脱走する展開へと急に舵を切り、主人公らがその行方を追う刑事ドラマとなる。意識不明の状態にある元上司は女子高生に導かれ、ドサ回りのアングラ劇団へ合流。劇団員のバカ騒ぎはどこか60~70年代に流行したアシッド映画の気分。劇団を蹂躙するバイク族の暴力、アクション描写は澤田幸弘監督の持ち味か。地井武男演じる刑事はハードボイルドに物語を締めつつ、欲望や暴力の象徴として権力のゆがみも背負った格好。性交場面での遊び心満点の黒地活用も印象深い。

監督:澤田幸弘 脚本:長谷川和彦
出演:地井武男/山科ゆり/川村真樹

1973年製作/73分
配給:日活


性盗ねずみ小僧(1972年/脚本)

政治の都合で義賊・ねずみ小僧に仕立てられた「夜這い強盗」の男。その哀しくも可笑しい「来し方」が過去と現在を交錯させた構成の中で明らかになる。体裁としてはにっかつロマンポルノ枠の時代劇だが、反体制意識に目覚める青年の気骨な青春映画であり、すぐれた男根を持つ男の艶笑喜劇でもあった。主人公が貧農の出身、情を交わす女が実の妹という仕掛けも含め、細部に社会性にじむ問題意識、悲恋劇も絡めており、重ねてみるほどに味わい深い内容。曾根中生の切れ味鋭い監督第2作にして、ヒロイン・小川節子の白肌バディーもナイスに弾ける逸品。主人公・次郎吉を演じた五條博は「太陽を盗んだ男』」モンタージュ写真の係員役で出演。

監督:曽根中生 脚本:長谷川和彦
出演:小川節子/五條博/森竜哉

1972年製作/67分
配給:日活


©1991/写真提供:リトルモア

夢二(1991年/出演)

「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」と並ぶ鈴木清順監督の「浪漫三部作」の一本。大正期、駆け落ちのため北陸・金沢へとやってきた人気絵師・竹久夢二の姿を追いつつ、彼の絵さながらの耽美にして幻惑的な映像世界が交錯する。夢二の美人画そのままの女優陣(毬谷友子、宮崎萬純、広田玲央名ら)の垂涎競演に引けを取らず、日活出身の奇人監督のもと、長谷川和彦が大鎌殺人鬼・鬼松を激演。「太陽を盗んだ男」の主演俳優を相手に、役者としての存在感を見せつけた。恐らく人生初と思われる特殊メイクを施しての強烈な最期も見もの。映画の末尾には夢二作詞の流行歌曲《宵待草》(淡谷のり子歌唱)も登場。長谷川にとっては何かと縁故のある貴重な出演作。

監督:鈴木清順 脚本:田中陽造
出演:沢田研二/坂東玉三郎/毬谷友子/長谷川和彦

1991年製作/128分
配給:リトルモア、マジックアワー


文:賀来タクト

PROFILE

長谷川和彦

長谷川和彦

1945年8月、母が原爆投下2日後に広島市に入り放射能を浴びる。長谷川は胎内5ヵ月のため胎内被爆となった。1946年生まれ。その後広島市翠町(現・南区翠町)で育ち、広島大学付属高校へ進む。在学中はアメリカンフットボールに熱中。なお愛称の「ゴジ」は、大学時代アメフトのボールを長髪を振り乱して追う形相を、先輩が「ゴジラそっくり」と言ったのが始まりらしい。入学5年目で「神々の深き欲望」(68)スタッフ募集中の今村プロに入社。同時に中途退学となる。その後、今村昌平監督の「にっぽん戦後史・マダムおんぼろ生活」(70)についた後、契約助監督として日活撮影所入り。小沢啓一、西村昭五郎、藤田敏八、神代辰巳などの助監督を務める。「濡れた荒野を走れ」「青春の蹉跌」などのシナリオを書いた後、1976年「青春の殺人者」で監督としてデビュー。1979年、「太陽を盗んだ男」を監督。1983年、若手監督9人で「ディレクターズ・カンパニー」を設立。「逆噴射家族」(83)の製作プロデューサーを務めた。その後、現在に至るまで監督作品はない。

<監督>
1976  「青春の殺人者」
1979  「太陽を盗んだ男」

<脚本>
1972  「性盗ねずみ小僧」 監督/曽根中生
1973  「濡れた荒野を走れ」 監督/沢田幸弘
1974  「青春の蹉跌」 監督/神代辰巳
1974  「宵待草」 監督/神代辰巳
1974  「恐怖はゆるやかに」 NHK
1975  「悪魔のようなあいつ」  TBS
1979  「太陽を盗んだ男」 監督/長谷川和彦

<製作>
1984  「逆噴射家族」 監督/石井聰互

EVENT

水谷豊、岩井俊二が登場
7月9日(土)~7月15日(金)まで、渋谷のユーロスペースにて開催される「長谷川和彦 革命的映画術」。
1976年、キネマ旬報ベストワンに輝いた「青春の殺人者」で監督デビュー。続く第2作「太陽を盗んだ男」はキネマ旬報「1970年代日本映画ベストワン」に輝いた伝説的な作品。たった2本の映画で、映画界に革命をもたらした男。
今回の特集上映では、監督作品2本はもちろん、「青春の蹉跌」「宵待草」「濡れた荒野を走れ」「性盗ねずみ小僧」という、長谷川の原点ともいえる脚本作品4本を上映。そして、怪演を魅せた出演作「夢二」では、俳優・長谷川和彦の魅力にも迫る。

「長谷川和彦 革命的映画術」トークイベント
会期中のトークイベントが決定。
7月9日(土)の初日には、長谷川和彦と岩井俊二の対談が実現。
さらに、7月15日(金)の最終日には、長谷川和彦と「青春の殺人者」主演・水谷豊の対談が実現。
まさに革命的な一日がやってくる。
*上映のユーロスペース、アマゾンなどでは今回の開催を記念して、「長谷川和彦 革命的映画術」を出版。「青春の殺人者」「太陽を盗んだ男」のシナリオを収録。上映全作品のレビューを合わせた一冊。7月9日(土)発売。発行:A PEOPLE

ユーロスペース
「長谷川和彦 革命的映画術」トークイベント開催、ゲストが決定

7月9日(土)18:00「太陽を盗んだ男」の回上映後
長谷川和彦 × 岩井俊二  司会:三留まゆみ

7月15日(金)18:00「青春の殺人者」の回上映後
長谷川和彦 × 水谷豊  司会:三留まゆみ

THEATER

2022年7月9日(土)~7月15日(金)  【東京】ユーロスペース