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photo:星川洋助

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タナダユキ

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賀来タクト


映画や、映画館を通して、きっかけを

「百万円と苦虫女」「ロマンスドール」などで知られるタナダユキ監督の新作映画「浜の朝日の嘘つきどもと」は、福島・南相馬の古びた映画館をめぐる人間模様をオリジナルで編んだ心温まる物語。

テレビドラマ「タチアオイが咲く頃に ~会津の結婚~」に続き、福島中央テレビとタッグを組み、同局の開局50周年記念作品として製作された。

「もう一度、福島を舞台にした作品をと考えていたとき、とある古い映画館のことが書かれている新聞記事をたまたま見つけたんです。映画館にはいろんな人がいろんな思いを持って出入りする。映画館をひとつの入れ物にしたお話なら何かできるかもと思い、提案させていただいたら、『いいですね』とおっしゃっていただけました」

映画に先立つ2020年10月30日には、物語が地続きとなっている同名のテレビドラマが先行放映されている。このドラマ版の前日譚的な位置にあるのが映画版。

「ドラマ版も映画版も“福島、頑張っています”みたいなことを声高に叫びたいわけではないというお話を中テレ(福島中央テレビ)の方からいただいていて、最初はロケに使う映画館も別の地域の映画館を使用する予定だったんですけど、それが諸事情でダメになり、つぎに見つけた候補が朝日座さんでした。そこがたまたま南相馬にある映画館だとわかって、これは導かれているな、(東日本大震災のことを)全く入れないというのもおかしいなと。それで、テレビ局の人に震災に関するエピソードを伺い、それをやりすぎない程度にキャラクターの中に落とし込んでいった感じです」

経営が傾いた朝日座に突如、表れたのが茂木莉子と名乗るひとりの女性(高畑充希)。

震災を契機に自身の日常にひびが入ってしまった彼女は、高校時代の恩師(大久保佳代子)に映画の魅力を教わることで身を持ち直し、恩師が愛した朝日座の再建に立ち上がる。

「コロナ禍でエンターテイメント業界も打撃を受けて、自分としても映画館が消えていくのはとても哀しい。でも、先生のために立ち上がった莉子の行動=街のためになるかどうかはまた別の話。映画館を救った女の子のいい話、みたいな映画と簡単に思われるのも実は不本意でして(笑)。そういう迷いの中にある女性をちゃんと描きたいと思っていました」

莉子は恩師から古い映画のよさを教わる。

朝日座も名画座。 そのため、劇中ではさまざまな名作が顔を出す。

たとえば、莉子が映画館主(柳家喬太郎)に啖呵を切るときの「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねえよ」は北野武監督作品「キッズ・リターン」の名台詞。

「『キッズ・リターン』は大好きな映画で、幸いにも許可をいただけたので、莉子の台詞に使わせていただきました。『喜劇 女の泣きどころ』(瀬川昌治監督)は2、3年前、神保町シアターの特集上映《生誕90年記念 昭和の怪優 小沢昭一のすゝめ》で見て、この面白さをなんとか広めないといけないなと(笑)。『青空娘』(増村保造監督)もそうですけど、昔の日本映画はやっぱりエネルギーがすごい。面白い映画が多いですし、大好きですね」

恩師の薫陶を受けた莉子は映画の配給会社で働く。 その際に最初に海外から買い入れた作品として登場するのがホアン・シー監督の台湾映画「台北暮色」。

「映像の使用が可能と聞いたときは思わず『ホントにいいんですか?』って。本当に嬉しかったです。好きな台詞もあります。『距離が近すぎると愛し方を忘れる』とか。私は台湾映画が好きで、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』はDVDも持っています。ホウ・シャオシェン監督の『恋恋風塵』も大好き。そもそも台湾という国が大好き。コロナ禍が終わったら、絶対行きたいですし、叶うなら今すぐに行きたい(笑)!」

被災地への憐憫に溺れず、映画偏愛にも向かわず、軽妙な人情劇に仕上がった。

「笑いを大事にしつつ、明るく重いことをやりたかった。福島で起きたことは決して他人事ではありません。そして、福島に朝日座があるように、ほかの地方にも小さい映画館はいっぱいあります。映画や映画館を通して、何かを感じられるきっかけになれば幸いです」

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「浜の朝日の嘘つきどもと」


「浜の朝日の嘘つきどもと」

監督・脚本:タナダユキ
出演:高畑充希/柳家喬太郎/大久保佳代子

2021年製作/114分/日本
配給:ポニーキャニオン
© 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

8月27日(金)より福島県先行公開
9月10日(金)より全国ロードショー


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