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ピル・カムソン

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相田冬二


ファン・ジョンミン
その新しい顔を見てみたいと思いました

あのファン・ジョンミンを主演に迎え、しかも実名での誘拐事件を創り上げる。理想的な長編監督デビューを飾ったピル・カムソン。

「高校の頃から映画監督になるのが夢だった。映画の大学に入り、助監督経験を積み重ね、短編を撮ってきた。映画ファンが監督になる。典型的なパターンですよ」と気取らずに笑う。誇張のない誠実な素顔からは想像もつかないが、映画「人質 韓国トップスター誘拐事件」は大胆不敵な痛快作である。

――とてもエキサイティングな映画でした。実名であることが逆に作劇を際立たせ、最後までワクワクさせられました。なぜ、この企画でファン・ジョンミンだったのですか。

「好意的に観てくれて、ありがとうございます。ファン・ジョンミンさんにした理由は3つあります。まず、1つ。この映画では人質として登場するので、縛られたまま演技しなければいけない。上半身だけで、感情のスペクタクルな振れ幅を見せられる俳優は、私の心の中ではファン・ジョンミンただひとりでした。

2つめ。後半にはアクション・シーンがあります。アクション俳優でなくても、難しいアクションがこなせる人。それも彼でしたね。そして、3つめ。これまでファン・ジョンミンさんは、ヤクザや刑事など、マッチョな男性の役が多かった。被害者はほとんど演じたことがない。誘拐事件の被害者である彼を通して、新しい顔を見てみたいと思いました」

――まさにその通りですね。彼の俳優としての真価を発見する試みにも感じられます。

「強くて、自己主張もはっきりしていて、誰かを制圧するような役をたくさん演じてきましたよね。今回のような、最も弱い立場に追い込まれる極限状況において、どのような演技を見せてくれるのか。そのあたりを引き出したいと思いました」

――撮影してみて、彼のどのような魅力を見出しましたか。

「ファン・ジョンミンが一般的なイメージとして持っている意志の強さも表現しながら、弱いところも見せてくれた。ただ、弱くても屈服はしない。降参はしないけれども、弱いエネルギーも同時に見せてくれる。強いイメージと弱いエネルギーが衝突しあっていたと思うんです。それがすごく自然に感じられた。私たちがいままで知っているファン・ジョンミンの範疇から外れてはいないけれども、その中でさらに新しい魅力を見せてくれたと思います」

――役者が別人のように変身すると驚くけれど、実はそれは簡単なことですよね。特に今回は実名で演じるわけで、パブリックイメージを踏襲しながらの新展開は難易度が高く、それゆえの見応えがありました。ところで、あなたはどのような映画を愛してきたのですか。

「高校生のときに観た『ブレードランナー』は大きかったですね。映画はこのような表現もできるのだと教えてくれました。面白いアクション映画だと思っていたら、子供心にいろいろなことを考えさせてくれた。何度も何度も繰り返し観ました。自分も、このような感情を表現する映画を撮りたいと思いました」

――あのハリソン・フォードは、まさに弱さと強さが同居した存在でしたよね。ハリソンはもともと「スター・ウォーズ」シリーズのハン・ソロ役などでも、強さと弱さを交錯させる俳優です。あなたが、ファン・ジョンミンに見つけたものに通じます。

「リドリー・スコットの映画は好きですね。あと、マーティン・スコセッシ、コーエン兄弟も。日本映画も好きですが、中でも今村昌平。『復讐するは我にあり』は、『人質』のシナリオを書きながら、よく観ていました。また、俳優たちに声をかけて、一緒に観て、ディスカッションなどもしていました」

――そうしたあなたの映画探索が、本作の先の読めなさを醸成しています。特に後半。あるキーパーソンの使い方には、裏の裏をいく作劇の妙がありました。

「良いご指摘をありがとうございます。後半にいくにつれ、どうなるか予測できない展開にすること。これが私にとって大切な点でした。あの人物は確かにそうですね(笑)。予測を裏切る展開の一方で、みなさんが期待しているような地点も目指していました。ジェットコースターから降りたときの気分を味わってほしくて、自分なりに努力したつもりです」

――あなたのその努力の背景にあるものとは?

「韓国映画界の強みは、観客の水準が高いことだと思います。とにかく要求してくるハードルが高い。作り手は、そのために努力する。これまで作られた映画にはなかったような新しいものを常に探さなければいけない。観客のみなさんには感謝しつつ、いつも恐れています。リアルさと、共感。どちらも必要なのです。リアルさを追求しながら、映画としてのお楽しみも一緒に、バランス良く作らなければいけないと考えています」

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「人質 韓国トップスター誘拐事件」


「人質 韓国トップスター誘拐事件」

監督:ピル・カムソン
出演:ファン・ジョンミン/イ・ユミ/リュ・ギョンス
2021年/韓国/ 94分
配給:ツイン
提供:ツイン、Hulu
(c)2021 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K & SEM COMPANY. All Rights Reserved. HITOZITI-MOVIE.COM

9/9(金)、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー


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