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「映画をつづける」

review

大阪アジアン映画祭

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相田冬二


コロナの時代に入ってから企画・撮影された作品たち

大阪アジアン映画祭が今年も開催される。
暉峻創三プログラミングディレクターに訊いた。

昨年は、「最も早くコロナに見舞われた映画祭」となった。
それでも万難を排して大阪入りした一部のゲストを除き、映画人の来日は中止。

「舞台挨拶やティーチインはできませんでした。 でも、どの回も上映後はお客さんたちが拍手をしていた。そこにはいないゲストに聴こえるように。

そのことで映画祭に、例年以上の一体感が生まれたように思います。
いちばん印象に残っていることですね」

大きなイベントの開催が見送られる中、細心の注意をはらって、予定通り敢行。

「毎年そうですが、大切にしていることは、映画館で映画を上映すること。
映画祭で映画を観てくださるお客さんは、ロードショーに較べると全然減っていません。

第15回の2020年もそのことを実感しました。
あのような状況下でも、映画を観に来てくださる方はたくさんいましたから」

第16回も、映画祭の規模は変わらない。
上映されるのは、オンラインで上映される旧作も含め、なんと計70本。
堂々たる大映画祭だ。

「ただ、夜の回の上映はできないので、全体の上映回数は減っています。
既に配給が決まっていて、今後劇場公開される予定の作品は一回だけの上映。

今回の映画祭でしか観れないかもしれない作品は二回上映するようにスケジュールを組んでいます」

こうしたきめ細やかな配慮こそ、大阪アジアン映画祭が多くの人に愛されている所以。

2021年も盛況が期待できる。
さて、気になるラインナップを、いくつかの視点から、ピックアップしてもらおう。

「コロナの時代に入ってから企画された、あるいは、撮影された、という作品がいくつもあります。

フィリピンの『こことよそ』は、リモートで出逢ったカップルを描くロマンティックコメディ。シリアスな作品ではありませんが、現実の生活が反映されている点、コロナ禍で非常に厳しい対策がとられているフィリピンの事情も鑑みると、大変興味深い。

日本の『4人のあいだで』は、コロナ禍で20年ぶりに「再会」した3人+1人のサークル仲間たちを描くワンシチュエーションもの。
一見、全員が集まっているように見えながら、徐々にそれが実は……、ということがわかってくる。

中国の『守望』は、都市がロックダウンしたため、閉店に追い込まれそうになった店に訪れる小さな奇跡を描いています。
日本とはまた状況は違いますが、身につまされます。

タイの『愛しい詐欺師』は、質の高いエンタテイメントですが、後半、突然、物語がマスクをしている時代に突入していく。
おそらく撮影中に、コロナ禍を迎え、脚本を書き換えたのでは。メジャー会社制作の作品が、こうした柔軟な対応したことは画期的。 そして、見事に不可避の状況を取り込んでフィクションを完成させています。

カナダの『ナディア、バタフライ』は、2020年に東京オリンピックが開催された設定で、アスリートを描いたもの。
引退間際のカナダ代表水泳選手が東京で過ごす非日常な夏の日々が見つめられていますが、いまとなっては陰影がより深まりました。

水泳選手出身の監督が、実際の水泳選手をキャストに起用しているので、水泳シーンはきわめて映画的なエモーションに満ちています。
結局、開催中止となった昨年のカンヌ映画祭にも選出されていた秀作です」

カナダ?
不思議に思う方もいるかもしれない。
大阪アジアン映画祭は、アジア人を主人公した作品や、アジアを舞台にした作品も、選定対象に含んでいる。

『ナディア、バタフライ』は、カナダ人監督か、カナダ人を主演に、東京を舞台にした映画だから選ばれている。

「今回は、国籍が広がったことも大きなポイント。

エクアドルとウルグアイ合作の『空(くう)』は、なんと中国人が主人公。
監督はエクアドル人ですが、以前、金融系の仕事をしていて北京に赴任してたそう。エクアドルの中国人コミュニティを描いた作品が、米アカデミー賞にエクアドル代表としてノミネート候補になっているのもユニークです。

『ジェミル・ショー』はトルコから。
合作としてクレジットに入ってたのを除くと、大阪アジアンでトルコは初めてですね。

そして、イスラエルの『ハムネード』は、これまでのイスラエル映画のイメージを一新する娯楽作。
新婚夫婦の一夜を洗練されたタッチで描いていて、作家性もある。
リチャード・リンクレイターの世界や、ウディ・アレンの名手ぶりが味わえます。
これはパリが舞台でも成立する内容ですし、この監督ならどこの国でも傑作をものにできそうです。

イランの『キラー・スパイダー』も、従来のイラン映画からは想像できなかった一本。
アメリカ映画のフィルムノワールを彷彿とさせます。
大阪アジアンでは、これまでも、いかにもイラン映画っぽいイラン映画はあえて選んでいません」

考えてみれば、あまり馴染みのない国から届く映画はどうしても作家性が強かったり、社会的メッセージを含んだものになりがち。
純然たる娯楽作は、むしろ知られざる世界でもある。
大阪アジアンのセレクションは貴重だ。

「今年は、これまでで最も中国の多様性を示すことができそうです。

『君のための歌』は、ジャ・ジャンクーとペマ・ツェテンのプロデュース。
チベットから期待の気鋭が登場します。

『すてきな冬』は、ウイグルの監督による短編。
ビジュアルは完全にヨーロッパ映画のようで、中国映画のイメージが刷新されます。近年、ウイグルからは注目の監督が続々現れていますが、本作はその筆頭ですね。

『The Eight Hundred(英語原題)』は、2020年の世界興行収入ランキングで堂々の1位を獲得した中国映画。
1937年の上海での軍事衝突に材を得た戦争ですが、抗日もの=愛国映画に見えますが、政治色は一切ありません。
純粋な素晴らしいスペクタクルで、起承転結を排して、映画的な力で見せ切る。 こうした作品が大ヒットしていることは喜ばしいことですね。

そして、ピーター・チャンが久しぶりに監督に復帰した『中国女子バレー』は、コン・リーが実在のバレー選手に扮した大河ドラマ。
見応えがあります。
日本もバレーが強かった時代の話なので、奇しくもここでも日中戦が行われています」

今年は、【大阪アジアン・オンライン座】としてオンライン上映も行う。

「短編を中心に、これまでの大阪アジアン映画祭で見逃されている可能性の高い秀作7本をセレクトしました。
すべて強くオススメできます。

そして、『関公VSエイリアン(デジタルリマスター版)』(1976)と『チマキ売り(デジタルリマスター版)』(1969)という旧作も。
『関公VSエイリアン』は、ゴジラとウルトラマンが合体したかのような異色作ですが、円谷プロの神話的な特撮技師が参加していることもあり、特撮マニアの間では既に話題になっているようです」

最後に、オープニング作品とクロージング作品について。

「クロージングは、石井裕也監督の『アジアの天使』。
石井作品の常連、池松壮亮と、大阪アジアンとも馴染みの深いチェ・ヒソが共演した韓国オールロケ作品。
個人的には、石井監督の力量をあらためて感じました。
かつての韓国映画からいかに学んでいるかも痛感させられます。

オープニング作品が、ドキュメンタリーというのも大阪アジアンならではかもしれません。
香港を代表する大ベテラン、アン・ホイを追いかけた『映画をつづける』は、映画によるアン・ホイ論ではなく、アン・ホイの映画を観たことがない人も楽しめる作品。

監督として、というより、人としての生き方、仕事の仕方、年齢の重ね方を、ひとりの女性を通して、見つめています。
日本語タイトルはいろいろ考えて、これに決めました」

その作品の英語原題は、【Keep Rolling】。
映画をつづける。
それは、暉峻創三と大阪アジアン映画祭の、静かで力強い宣言に他ならない。

ダイナミズムな色彩がより深みを増したセレクションに、どうか出逢ってほしい。



「大阪アジアン映画祭」

スクリーン上映 3月5日(金)~14日(日)
オンライン座 2月28日(日)~3月20日(土)

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