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PEOPLE / イ・ジュンドン ②
チャン・リュルと韓国映画

Photo by : Kyeong-yong Shin (STUDIO DAUN)

映画プロデューサーであるとともにチャン・リュル監督作品の常連俳優として出演を重ねてきたイ・ジュンドン。彼のインタビューから、前編で紹介しきれなかった話から監督の映画についてや他の監督との違い、韓国映画界の状況などについてお伝えしたい。


———「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」で酔っ払ってテーブルに上がって歌うシーンは短かったですがとても味があり、韓国ならではの情緒が感じられました。曲や撮影エピソードなどについて教えていただけますか。

「最近の人たちは飲み会の後にカラオケに行ったりしますが、我々のような古い世代は飲み屋で箸でテーブルを叩きながらリズムに合わせて歌っていました。どこか古き良き時代の雰囲気がありますよね。私が歌った曲はキム・スヒさんの切ない歌謡曲の「忘れられません」です。実際この曲は私が酒を飲みながらよく歌う曲です。今の人から見るとおかしいと思うかもしれませんが、私は酒を飲むと隣のテーブルにお客がいるかいないか気にせずに歌います。そのような曲が3〜4曲はありますよ。その中で一人で歌うときにちょうどいいのがこの曲なんです。ある意味私は俳優として抜擢されたというよりも、お酒を飲んで歌っている素の私が映画にぴったりだと思われたのかもしれません。だからか、このシーンはテイク2で終わりました」

———その後もずっと起用されているのはなぜだと思いますか?

「周りからしたら、監督がまさか私みたいなズブの素人の起用にこだわっているとは思えないでしょう。だから、私が監督との個人的なつき合いを利用して出演しているように思われがちなんです。なぜ続いてチャン監督が私を映画に出演させるのかをよくよく考えると、やはり私のことをお守りだと思っているのに違いない気がします(笑)。パク・ヘイルさんは監督の“ペルソナ”ですが、私の場合は“お守り”として使われているんでしょう。私が出演しないと不安だとか、撮影中に事故が起きるなんて言うんです。ただ、『福岡』は海外ロケなので、自費で飛行機代を出してまで現場に来てほしいとは言われませんでした。そこまで図々しいことを言う人ではないので。監督はキャラクターではなく、それを演じる俳優が本来持っている感じやその空間に漂っている空気感、それを現場でリアルに作り出すのに関心があるんです。一歩間違うとそういうタイプの監督は無責任だと言われたり、シーンもそれほどうまく描き出せなかったりするんですが、彼はかなり面白く作り上げていると思います」

———続いて特別出演された「フィルム時代愛」と「群山:鵞鳥を咏う」はどうご覧になりましたか?

「『フィルム時代愛』は私の後ろ姿が一瞬映るだけなので、私はお守りに違いないと確信しました(笑)。この映画は実験映画に近いです。監督が大好きな空間や人物、時間を少しだけひねることで日常が変わって見えてくるという洞察を与えてくれます。同じ時期に制作された映画の中でもかなり変わっていると思います。ある病院で映画を撮るという設定ですが、その空間だけでなく我々が生きている世界を異質な視線で眺めたり、違う見方をしたりすることへの洞察を与えてくれると思います。『群山:鵞鳥を咏う』は当初の段階では時間の流れが『慶州』に比べて順番通りになっていました。『慶州』は若干紛らわしい時間設定になっていましたが、そこには過去の時間、離れた場所の時間、現在の時間など、慶州という空間と同じように時間をひねって見せようという監督の意図があったのです。結局『郡山〜』は編集する際に時間の流れを変え、それによってチャン監督の特徴がより活かされることになりました。チャン監督の“ひねり”がそこにありましたね」

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