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PEOPLE / チアン・ショウチョン(姜秀瓊)前編
「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」出演
台湾気鋭監督に影響を与えた、ふたりの巨匠

Photo by : 川野結李歌

女性監督の活躍が目立つ台湾映画界。その中心的存在であるシルヴィア・チャン(張艾嘉)はもとより、デビュー作「台北暮色」で評価された新鋭ホアン・シー(黄煕)など、注目すべき監督が数多くいる。そんな中で忘れてはならないのは、エドワード・ヤン(楊徳昌)、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)という二大監督の薫陶を受けたチアン・ショウチョン(姜秀瓊)監督だ。
 大学時代にエドワード・ヤン監督の「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」で、チャン・チェン(張震)演じる主人公・シャオスー(小四)の二番目の姉役に選ばれて、女優として1991年にデビュー。大学で演劇を学んでいた彼女を映画の世界に導いたのは、言うまでもないヤン監督だった。
「エドワード・ヤン監督は私の大学で講義をしていました。監督が今度作品を撮るので、たくさんエキストラが必要で役者を探しているという話を聞いたんです。私は演劇を専攻していましたが、映画にも惹かれていて、映画ってどんな風に撮るんだろうと興味を持ちました。それで、好奇心から見に行ったんです。その頃の私はちょうど60年代当時の女の子の髪型をしていたので、ちょうどいいかもしれないと思いました。軽い気持ちで1日だけ見に行って帰るつもりが、まだ決まっていないキャストがたくさんいるから、監督が面接するというので受けたところ、すごくこの役に合っていると言われて出演することになったんです」

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撮影現場では厳しいとよく言われたヤン監督だが、「牯嶺街〜」の現場ではとても優しかったという。
「監督を初めて見かけたのは学内でした。私たちの演劇学科の庭で監督が座ってコーラ瓶を手にしていたのを覚えています。ちゃんとお会いしたのは映画の面接のときでした。すごく優しくてとても細かいところに気のつく監督で、私たちを見る目が優しかったのが印象に残っています。大先輩の監督ではありましたが、そういう緊張感を私たちに持たせないようないい監督でした。撮影中は、監督はすごく大きなプレッシャーを抱えていらしたと思います。ですが、私や俳優に対して怒ったりするようなことはなかったですね。私がシャイな性格だと見抜いていて、シャオスーの姉役に性格もぴったりだと思っていました。私に接する態度がすごく優しくて、懇切丁寧にお話ししてくださったことで、私も役柄を理解できました」

ヤン監督の指導に従って、無口だが弟や家族のことを深く理解している姉を素直な演技で見せて、その年の金馬奨で最優秀助演女優賞にもノミネートされた。だが、その後は演技者ではなく監督の道を選んだ。
「監督となったのは、ヤン監督の面接を受けたこととすごく関係があると思います。その面接を受けたということは私にとって得難い機会でした。監督は一人一人に『君は何ができる?』と才能や特技について聞いていました。演技を学んでいる学生が多く、俳優を目指している人も当然いっぱいいて、みんなそれぞれに特技や才能をアピールしたんです。でも、当時の私は何の特技もなく何もできなかった。それを素直に監督に話しました。そして、後になって『なぜ私を選んでくれたんですか?』と監督に聞きました。すると『この役にぴったりだ。演じなくてもいい、作らなくても私が演じてほしい誠実なこの人物を演じられるだろうと思ったんだ』と答えて。それが私の特色なんだと監督が捉えてくださったんです」
 そのヤン監督は俳優としてよりも、作り手としてのチアン監督の資質を見抜いていたようだ。