「ションベン・ライダー」「風花」4Kレストア版

2025年9月27日(土)より
ユーロスペース(東京)ほか全国順次公開

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配給 A PEOPLE CINEMA(エーピープルシネマ)

INTRODUCTION

「相米4K ふたつの創造 ふたつの感性」
風のように速く、花のように美しく舞う――

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相米慎二には、ふたつのマスターピースがある。「台風クラブ 4Kレストア版」(1985年製作・2023年公開)と「お引越し 4Kリマスター版」(1993年製作・2024年公開)。
前期・相米と後期・相米の代表作。自己模倣に陥らず、13本のフィルモグラフィを紡いできた才能。それでも、前期と後期には違いがある。明らかに獰猛で激しい前期と、静謐で美しく儚い後期。そこにまたがる創造と感性はどう異なるのか――。

「翔んだカップル」でデビュー、その主演・薬師丸ひろ子による第2作「セーラー服と機関銃」。すぐに生まれた第3作「ションベン・ライダー」(1983年)に一つ目の答えがある。相米は語っている。「この作品は夏休みの間、ひたすら西に向かって走るという映画です」(A PEOPLE・刊「相米慎二 最低な日々」より)。風のように疾走するブルース(河合美智子)、ジョジョ(永瀬正敏)、辞書(坂上忍)。前期・相米を象徴する初期3本を“小児科の映画”と言っていた相米。最初に達したひとつの頂点と、その創造と感性。「ションベン・ライダー」が、「ションベン・ライダー 4Kレストア版」として遂に蘇る。4Kの映像監修は、数々の相米映画の助監督を担当した榎戸耕史が務めた。

“風”の映画が「ションベン・ライダー」なら、“花”の映画は「風花」(2001年)だ。あまりにも美しい、東京の桜の満開の元でのゆり子(小泉今日子)と廉司(浅野忠信)によるファーストシーン。花は風に舞い、やがて、雪は花のように散るだろう。後期・相米映画「あ、春」で“大人の映画”としての評価を得た相米慎二、その遺作。ここにも新たな創造と感性が花開いた。その「風花」が「風花 4Kレストア版」として復活を遂げる。4Kの映像監修は本作のチーフ助監督だった高橋正弥が担当。

「相米4K」。それぞれの映画がエッジを立てて、あるいはより繊細に儚く蘇る。「台風クラブ」は「“水”の映画」であった。「お引越し」は「“火”の映画」でもあった。いま、再びまみえる2本の作品。繰り返す。「ションベン・ライダー」は「“風”の映画」である。「風花」は「“花”の映画」である。自然のあるがままのように、相米映画という存在は屹立している。2001年、9月9日、相米慎二は逝った――。53歳だった。風のように速く、花のように美しく舞った。その人生に私たちは“4Kレストア版”を通じて、また出会うのである。それは、再会ではなく新たな「ふたつの創造 ふたつの感性」とのはじめての邂逅である――。

FILMS

相米4K ふたつの創造 ふたつの感性

「ションベン・ライダー 4Kレストア版」

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  • 製作:キティ・フィルム
  • 原案:レナード・シュレイダー
  • 脚本:西岡琢也/チエコ・シュレイダー
  • 撮影:田村正毅/伊藤昭裕
  • 照明:熊谷秀夫
  • 美術:横尾嘉良
  • 音楽:星勝
  • 出演:藤竜也/河合美智子/永瀬正敏/鈴木吉和/坂上忍
  • (1983年/118分)
  • © 1983 kittyfilm
数々の“相米伝説”シーンが次々に繰り出される一作

ジョジョ、辞書、ブルースの3人の中学生はガキ大将のデブナガにいつもいじめられていた。今日こそやっつけようというとき、そのデブナガが3人の前で誘拐されてしまう。デブナガの父が覚醒剤を垂れ流していることに腹を立てた横浜のヤクザ極龍会の仕業であった。誘拐した組員は山と政の二人組だが、マスコミはこの事件を派手に報道し、組ではもてあましていた。一方、ジョジョ、辞書、ブルースは横浜に向かい、極龍会の組員で、山と政を連れ戻すように命令を受けた中年のヤクザ、厳兵と出会う――。

7分にわたる冒頭のワンシーン・ワンカット。貯木場での追っかけあい。まさに相米伝説ともいえるシーンが次々に繰り出す。「セーラー服と機関銃」で興行的成功を収めた相米がエンジン全開でその世界観をブローアップした一作。公開当時同時上映だった「うる星やつら オンリー・ユー」の押井守は本作を観て衝撃を受け、「勝手にやっていいんだ」と翌年、傑作「ビューティフル・ドリーマー」を作り上げたという。関係者だけが観た「ションベン・ライダー」の3時間半を超える全長版があったが、もうそのフィルムは存在してないという――。

「風花 4Kレストア版」

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  • 製作:テレビ朝日、TOKYO FM
  • 原作:鳴海章
  • 脚本:森らいみ
  • 撮影:町田博
  • 照明:木村太朗
  • 美術:小川富美夫
  • 音楽:大友良英
  • 出演:小泉今日子/浅野忠信/尾美としのり/鶴見辰吾/柄本明/笑福亭鶴瓶
  • (2001年/116分)
  • © テレビ朝日/TOKYO FM
相米慎二の遺作であり、新しい息吹が芽生えた一作

故郷・北海道に残した一人娘の香織に5年ぶりに逢いに行く風俗嬢のゆり子。泥酔し、コンビニで万引きしたことから、自宅謹慎を命じられている高級官僚の廉司。廉司は酔った勢いからゆり子の北海道への旅につきあうことになり、二人のぎくしゃくとしたドライブが始まった。だが実家に着いた義父の「東京で何をしたか知らないわけじゃない。娘の香織に逢わせるわけにはいかない」という言葉に返す術もなく実家を後にする。廉司には上司からの一方的な解雇通告が。行き場をなくした二人は雪の残る山奥へと向かっていく――。

相米映画に新しい流れが生まれた作品。小泉今日子と浅野忠信は、相米映画に初出演。阪本順治監督作品で知られる椎井友起子がプロデューサーを務めた。また、「鮫肌男と桃尻娘」などで知られた町田博はCMでのタッグを経て、初の相米映画のカメラマンに。一方で、相米映画のOBもズラリ。脇には鶴見辰吾、尾美としのり、寺田農、木之元亮、笑福亭鶴瓶(声)、柄本明らが出演。本作は2001年1月に公開。相米慎二は同年、9月9日に逝去。「風花」は相米慎二の遺作となった。

DIRECTOR

相米慎二

相米慎二

1948年1月13日、岩手県盛岡市で生まれた。父親の転勤で6歳の時に北海道標茶町に転居し、1958年に父親を失う。その後小学校5年の時に札幌市、中学3年の時に釧路市に移る。北海道釧路江南高等学校を卒業し、中央大学文学部に進学、1972年同大を中退、長谷川和彦の口利きで契約助監督として日活撮影所に入所した。長谷川や曽根中生、寺山修司の元で主にロマンポルノの助監督を務めた。助監督時代には杉田二郎のペンネームも用いている。1976年にフリーランスとなる。1980年、薬師丸ひろ子主演の「翔んだカップル」で映画監督としてデビューした。翌1981年、「セーラー服と機関銃」で興行的な成功を収めた。1982年6月、長谷川和彦、根岸吉太郎、黒沢清ら若手監督9人による企画・制作会社「ディレクターズ・カンパニー」(ディレカン)を設立。1983年には吉村昭原作の「魚影の群れ」を発表。

1985年の「台風クラブ」は第1回東京国際映画祭(ヤングシネマ)でグランプリを受賞し、キネマ旬報「オールタイムベスト・ベスト100」日本映画編(1999年版)の55位にランクインしている。同年、斉藤由貴の映画デビュー作となった「雪の断章―情熱―」を監督した。また、同年のロマンポルノ作品「ラブホテル」は大きな反響を呼んだ。

その後、1993年の「お引越し」で芸術選奨文部大臣賞を受賞。同作は第46回カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品された。翌1994年には湯本香樹実原作の「夏の庭 The Friends」を発表。湯本に原作小説を執筆するように勧めたのも相米監督であった。1998年の「あ、春」は1999年度キネマ旬報ベストテンの第1位に選出されたほか、第49回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した。2001年、小泉今日子主演の「風花」を発表。一方で、1985年より数々のCMの演出を手がけ、また1991年と1993年には三枝成彰作曲のオペラ「千の記憶の物語」の演出を担当している。

2001年10月には舞台初演出となる「Defiled」の上演、また翌2002年には自身初の時代劇での監督作品となる浅田次郎原作の「壬生義士伝」の映画化作品のクランクインを予定していたが、2001年6月、体調不良のため病院で検査を受けて肺癌を告知され、同年8月中旬より療養生活を送り、同年9月5日に容体が急変して9月9日16時10分に神奈川県伊勢原市の病院で死去した。53歳没。同年1月公開の「風花」が遺作となった。葬儀は9月14日に築地本願寺にて営まれた。没後は青森県三戸郡田子町相米地区にある先祖代々の墓に埋葬され、同地区には「相米慎二慰霊碑」が建立された。

2023年、「台風クラブ 4Kレストア版」が公開。同年、「お引越し」がヴェネチア国際映画祭 最優秀復元映画賞を受賞。2024年、「お引越し 4Kデジタルリマスター版」「夏の庭 The Friends 4Kリマスター版」が公開された。2025年、「ションベン・ライダー 4Kレストア版」「風花 4Kレストア版」が公開。「相米4K」の流れは、現在も続いている――。

フィルモグラフィ

  • 1980 翔んだカップル
  • 1981 セーラー服と機関銃
  • 1983 ションベン・ライダー
  • 1984 魚影の群れ
  • 1985 台風クラブ
  • 1985 ラブホテル
  • 1985 雪の断章 ―情熱―
  • 1987 光る女
  • 1990 東京上空いらっしゃいませ
  • 1993 お引越し
  • 1994 夏の庭 The Friends
  • 1998 あ、春
  • 2001 風花

THEATER

2025年

9月27日(土)~
ユーロスペース(東京)