*

CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「シベル」
幼な子のように、また人間ならざる獣のように。

「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日、上映作品をレビュー。今回は、コンペティション作品「シベル」(フランス、ドイツ、ルクセンブルク、トルコ)。

* *

チャーラ・ゼンジルジとギョーム・ジョヴァネッティ。女性男性ペア監督による長編第3作。ふたりのコラボレーションは、バランスの良さに落ち着く保守的なものではなく、むしろ有機的に映画世界を拡張していく革命的な試みに思える。シンプルな物語を、より挑発的に組み立て直し、無法地帯にするべく解き放っていく。そんな協働作業の場に、異なる性の闘士の交錯は必須だったのではないか。クリエーションとは、ある種の緊張状態からもたらされるもの。そう体感できる映画の肌ざわりに、まず魅力がある。

言葉を話すことができない。だから口笛で意志を表明する。そのようなヒロイン、シベルの生き様はそれ自体が「抵抗活動」である。そんな彼女が、山小屋に潜伏するテロリストと思われる男の世話をするようになる展開は、劇性から離れた自然な摂理であっただろう。

アウトサイドを生きる者たちは、美学からそうしているわけではなく、「そうせざるを得ない」から、その道を歩いているという真実が、いささかの虚飾もまとわず、放置されている。映画の視点は、被写体の生命力を信頼している。だから、阻害されているアウトサイダーたちにも決して同情的ではない。その確かな距離に、人間という生きものの可能性と、祈りと等価の愛が託されている。

*

主演女優ダムラ・ソンメズの相貌は年齢を超えている。幼な子のように見える瞬間があり、また、人間ならざる獣に映るひとときがある。美化は周到に避けられているが、生命体としての輝きを抑制することはない、野放図なカメラワークが彼女のオーラを際立たせる。

この確信に至るまでに、監督たちが費やした時間や創造、そして破棄されたアイデアの数々を想う。過ぎ去ったもの、棄て去ったもの。それらが愛おしく感じられるのは、映画の真ん中で呼吸している存在の眩しさによるものである。

Written by:相田冬二


「シベル」(フランス、ドイツ、ルクセンブルク、トルコ)
Sibel
監督:チャーラ・ゼンジルジ、ギヨーム・ジョヴァネッティ

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー